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 多忙な父さんの代理で、オレは隣町の公民館にやって来た。  ここでは地元の青年団主催で三日後に開催される、夏祭りの最終打ち合わせが行われていた。  祭りの最後に上がる、五十発の花火。毎年夏に上村煙火が引き受ける、いちばん大きな打ち上げ業務だ。  当日のプログラムとタイムスケジュールを確認し、見物客に危険がおよばないよう決められた、打ち上げ場所からの保安距離を考慮した立ち入り禁止区域を再度みんなに説明した。  士気が高まる青年団のメンバーと挨拶を交わして別れ、残暑のきびしい真昼の陽射しを浴びながらゆらゆらと自転車をこいで来た道を戻る。  朝、家を出るときはまだ涼しかったのだ。  打ち合わせ時刻までに余裕があるからと、家から五キロほど離れた公民館まで車を使わず、なんとなく自転車で来てしまったことをすごく後悔した。  日なたを避けて、なるだけ日陰があるほうへふらふら引き寄せられるように進んでいたら、普段あまり通らない小さな寺がいくつか立ち並ぶ裏道に出てきた。  神聖で静謐な空気があたりを包みこむ。  寺の周辺は、なぜか大通りより涼しく感じられた。  人通りのない木陰を進んでいると、ちらりとわき見した寺の中に見知った影が見えた気がして、オレはふいにブレーキを握った。  通りすぎた道を自転車にまたがったままバックして、寺の門から中をのぞきこむ。
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