4/9

194人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
 寺の住職と若い男女が立ってなにか話している。  距離があるため話す内容はここまで聞こえてこない。  オレはそっと自転車から降りて、三人にバレないよう門の影に隠れた。  寺の奥へと入ってゆく三人を、距離を保ちながら追いかける。  理香は住職の話を聞いてるあいだも移動するあいだも、ずっと志信の腕にしがみついていた。 「なにして、るんだろ……?」  なんだかいやな予感がする。そろそろと慎重に歩を進め、本殿のわきで足を止めた三人の様子を、石碑のかげに隠れてうかがった。  志信の腕を解放した理香の手に、住職から細長い木片が渡される。  それはよく墓の後ろに立ててある卒塔婆だった。  理香は赤い前かけをしたお地蔵さんのわきに卒塔婆を立てかけ、志信と二人、静かに手を合わせた。  オレは踏んだ砂利が音を立てないよう、またゆっくりと後退して本殿の裏側に回りこむと、二人が寺を出るまでその場にしゃがみこんで息をひそめていた。  無人になったのを確認して、お地蔵さんに近づく。  真横にかかげられている薄汚れた赤いのぼりを広げてみると、そこには白い字で『水子地蔵尊』と書かれていた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

194人が本棚に入れています
本棚に追加