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オレは、気づくとベルトのバックルに手を伸ばしていた。
もたつきながら震える指で前をくつろげ、ズボンと下着を下ろす。性器に触れると、少しだけ芯をもっていた。
オレは変態だ。志信と理香のことを考えて興奮してるなんて普通じゃない。
そしていま手で性器に触れたことで、なにかが終わった。
オレは二度と這いあがれない地の底に落ちた。
「しの…………」
そっと呟くことで罪の意識は増す。
興奮はしてるのに集中力は散り散りで、不必要な罪悪感だけが異常に膨れあがり、なかなか射精にまでいきつかない。
震える手で握りしめる性器にどれだけ圧力をかければ快感なのか、普段は考えなくてもわかるようなことが、いまはどんなに考えてもわからない。
雨音を聞きながらただ解放だけを求めて夢中で性器をこすっていると、真っ暗だった視界が突然ひらけて、目の前が明るくなった。
丸まったオレを包んでいた掛布団が、ベッドの下に落ちている。
ゆっくり視線を上げると、驚いた顔でこっちを見下ろす志信と目が合った。
「な、つき」
呆然と呟いた志信の視線が、オレの下半身に移動する。
両手で隠すように握られた性器が目に入ったのだろう、一歩後ずさった志信は立ったまま石のように固まった。
オレが避けて、電話にも出なかったから、志信は家に乗りこんできたのだろう。
来る途中、傘からはみでたのか、スカイブルーのシャツのところどころに、雨に濡れたネイビーの染みができていた。
妙に冷静に志信を観察してから、オレは床に落ちた掛布団を拾おうとした。
「な、に……?」
固まっていたはずの志信に手首をつかまれて、今度はオレの全身が硬直する。
汚れた手のひらをぎゅっと握りしめて顔を上げると、まっすぐオレを見つめる目と目が合う。
淡い色の瞳に強い光が宿っていた。
怖いくらいの視線に刺されながら、オレはつかまれた手首を振り払おうとした。
「はな、してっ」
何度ゆらしても解けない拘束に焦っていると、もう片方の手首もつかまれる。
「なっ…………、や、あーっ」
パニックでわけのわからない言葉を発して暴れていると、志信が片膝をベッドに乗りあげてきた。
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