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「夏生」  甘くかすれた声で、オレの名前を呼ぶ。  苦しそうに眉を寄せた表情は、いつになくセクシーで魅惑的だった。  じっと黙って見つめられるとぞくぞくした。  体じゅうが冷たくて、性器だけが異常に熱い。  さっきはいくらこすっても射精できなかったのに、いまは空気に触れているだけで暴発してしまいそうだった。 「しの。はな、して。おねがい」  屈辱と羞恥。  史上最悪の状況のはずなのに、オレはどうやら志信に見られてることが気持ちいいらしい。もう終わってる。  目をつむって快楽に耐えていると―― 「志信ー、夏生いたかー?」  階下から父さんの声がして、張りつめていた空気が一瞬でパリンとはじけた。  しばらく無言で見つめあったあと、志信はオレの手首を解放して、下に向かって叫んだ。 「いたー」  掛布団を拾ってオレの体にそっとかぶせると、志信はそのまま部屋を出ていった。 「さい、あく……」  外から扉が閉められたあと、階段を駆け下りる足音を聞きながら、布団の中でぼそりと呟く。  風邪でもないのに、吐いた息が熱い。  オレはひとりになった途端、懲りずにまた性器を握りしめた。  手首をつかんだ志信の手のひらの感触を思いだしながら、数秒後、長引く大きな快楽の波に飲まれた。
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