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 翌日は昨日の雨が嘘みたいに晴れた。  雲のない昼間の青空は漆黒の夜空へと変化し、暗闇に目をこらす市民たちが見守る中、色とりどりの花火が次々と頭上に打ち上がった。  時間にしてたった三分足らず。  最後の大玉が天高くで割れると、鮮やかに咲いた冠菊が光の糸を垂らしながら暗闇に吸いこまれていった。  一瞬の静寂のあと、大きな拍手と歓声がわき起こる。  青年団主催の夏祭りは、大成功で幕を閉じた。  でもオレは今日一日、失敗ばかりしていた。  今日は理香ちゃんが来てないからスムーズに仕事が進むな、と冗談を言って笑い合っていた従業員たちの期待を裏切って、オレは見事に理香の代理をつとめて仕事を滞らせた。  結果的に打ち上げが成功で終わったからよかったものの、危険をともなう現場では小さなミスもあってはならない。  出発時に消火器をトラックに積み忘れたのを皮切りに、花火の設置場所に水をまき忘れ、消防署の最終点検の立ち会い時刻を勘違いして遅刻する、というさんざんなダメっぷりだった。 「しっかりしろ」  そんなオレをずっと近くで見ていた志信が、寄ってきて頭を優しく撫でながら言った。  オレはその一言で立ち直るどころか、湯気が立ちそうなほど真っ赤になってうつむき、直後、打ち上げ筒に足をひっかけて転んだ。  失敗はすべて志信がフォローしてくれた。  オレのせいで仕事量がいつもの倍になっても、志信は疲れを顔にださず、文句のひとつも言わなかった。  片づけを終えて、青年団のメンバーと飲みに行くという父さんや志信たち従業員に今日一日の不手際を謝罪し、オレは誘いを断ってひとり帰途についた。
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