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 昨日あんなことがあって、もう志信の顔すらまともに見られなくなっていた。  だから失敗をフォローしてくれたお礼も、まだ言えていない。  というかもう、このさきどんなふうに志信と接していいかわからない。  帰宅後、ひとり縁側に座ってぼんやりしていると、また頭の中がぐるぐるし始めるから、オレは戸棚をあさって昨年の残りの線香花火をだしてきた。  暗い庭の真ん中でしゃがみこみ、和紙に火を点ける。  激しく火花を散らす小さな火の玉に、意識を集中して無心になる。  じっと見つめているとやがて勢いを失った火花は消えて、玉が地面に落下した。  それを見届けてまた新しい和紙に火を点け、オレは次から次へと線香花火を消化していった。  地味な線香花火は、どんなに必死であがいても最後はポトリとあっけなく落ちてしまう。微弱すぎる光は暗闇でなにかを照らすこともできず、パチパチはじける音は小さすぎて誰かに気づかれることもない。  男なのに男の志信を好きになってしまった、自分のゆく末のない恋を見ているみたいだった。  どんなに強く志信を想っても、報われることのないこの気持ち。  誰も幸せにしない、誰からも祝福されない。  落下する結末を知りながら、ただ必死で想いをつのらせるだけ。  このさき何度もやってくる夏のたびに、オレはパチパチはじけて死んでしまう。  燃えつきてひっそり地面に落ちる火の玉は、まるでオレの分身のようだ。
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