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しゃがんで深呼吸を繰り返していると、鼓動と息切れはしだいにおさまってきた。着信で震え続ける携帯電話をギュッと握りしめる。
受け入れなければいけない。
志信の相手はオレじゃない。
大好きな志信の困った顔なんて、見たくない。
立ち上がり、涙で歪む視界でまっすぐ前を見すえ、山を下りようと一歩踏みだしたとき、背中に視線を感じた。
咄嗟に振り返った。
真っ暗な山の中で、なにかが動く気配がする。
野犬の恐怖を思いだして身をすくめた瞬間、山の奥でなにかがきらりと光った。
「人間? 誰……?」
呟くと、光がゆれる。
上村煙火の火薬庫付近に誰かがいる。
こんな夜中にいったいなにをしているのか。
オレは光を目ざして山道をゆっくり奥へ進んだ。
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