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「来ないで!」  聞き覚えのある声がして、オレは暗闇に目を凝らした。  ゆらゆらゆれる光は、小さな炎だった。 「なにしてるんですか!」  オレは叫ぶと駆けだした。  走るスピードを緩めず近づき、小さな手に握りしめられたロウソクを思いきり吹き消して立ち止まった。 「なにすんのよ!」  カチャ、カチャと何度か音がして、小さな火花が目の前ではじける。  やっと点いたライターの火の向こうに、満足げな理香の顔が見えた。  直後、オレはまた火を吹き消した。  そして理香の右手をライターごと両手で握りしめると、驚いたのか、暗闇でハッと息を吸う音がした。 「こんなところで火を点けたら、危ないです」  オレは取り乱している様子の理香に、冷静な口調で説いた。  震える息を吐きだした理香が、泣きだしそうな声で叫ぶ。 「危なくったっていいのよ。ここを爆発させて、死んでやるんだから」 「し、死ぬ!?」  どうやら理香は火薬庫に火を点け、山ごと吹っ飛ばして自殺する気だったらしい。  それはいかにも自由奔放な理香らしいやり方な気がした。  でも実際は、頑丈なコンクリート壁と土堤で囲まれている火薬庫を、ロウソク一本で燃やすことは不可能だ。  そもそも理香は、なぜ自殺なんかしようとしているのか。
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