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「なんで夏生くんがそんなこと言うの? いつもあたしたちの邪魔ばっかしてるくせに」
志信が仕事場に理香を連れてくるたびイライラしていたが、彼女からしてみれば、せっかく恋人とゆっくり過ごそうと思って休暇をとってやって来たのに、その恋人の周りをちょろちょろ動き回って小姑のように小言ばかり言ってるオレのほうが間違ってると言いたいのだろう。
相手の立場になって考えてみると、その言い分は正しい気がした。
もしかしたら自分の存在が、理香が自殺を考える原因の一部だったのかもしれない。
ストレスを溜めこんでいたのは、オレのほうだけじゃなかったのだ。
「もう邪魔はしません。だから死なないでください」
心をこめて伝えた。
いくら天敵だからって理香が死んで嬉しいはずがない。
「ほんと?」
理香の声に、少しだけ明るさが混じる。
「ほんとです」
「じゃあ、あきらめてくれるのね?」
「あきらめ……」
どうやら理香はオレの気持ちに気づいていたようだ。
志信本人が伝えたのか女の勘なのかわからないが、志信をあきらめることを願っているのだから知ってることは確かだ。
「あきらめる……ことはできません」
「なによそれ。もう邪魔しないって言ったじゃない」
「邪魔はしません。でも、気持ちは消せないから、これからもずっと好きなままです」
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