7/12

194人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
 あきらめられるのなら、あきらめてしまいたかった。  でも頭でどんなにそうしようと思っても、気持ちはそこから動けない。  正直に伝えると、理香がふざけないで、と高い声で叫んだ。 「好きなままじゃ意味ないのよ! あきらめなさいよ、いますぐに! じゃないと死んでやるんだから」  そう言って、左手に持った火の消えたろうそくでビシバシ、オレの体を叩いてくる。 「理香さんは絶対、死なせませんから!」  ぶたれながらもはっきりと宣言する。  かつて野犬から身を守ってくれた志信のためにも、オレが命がけで彼の大切な理香を守らなければならない。 「死んだら絶対許しませんから。それでも死ぬって言うなら、オレが代わりに死にます。あなたが死んだら悲しい思いをする人がいることを、忘れないでください」  オレの言葉を、理香は嘘だと鼻で笑ったりしなかった。  火薬庫前の小さな常夜灯の明かりで、オレの右目から落ちた涙が見えたからかもしれない。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

194人が本棚に入れています
本棚に追加