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あきらめられるのなら、あきらめてしまいたかった。
でも頭でどんなにそうしようと思っても、気持ちはそこから動けない。
正直に伝えると、理香がふざけないで、と高い声で叫んだ。
「好きなままじゃ意味ないのよ! あきらめなさいよ、いますぐに! じゃないと死んでやるんだから」
そう言って、左手に持った火の消えたろうそくでビシバシ、オレの体を叩いてくる。
「理香さんは絶対、死なせませんから!」
ぶたれながらもはっきりと宣言する。
かつて野犬から身を守ってくれた志信のためにも、オレが命がけで彼の大切な理香を守らなければならない。
「死んだら絶対許しませんから。それでも死ぬって言うなら、オレが代わりに死にます。あなたが死んだら悲しい思いをする人がいることを、忘れないでください」
オレの言葉を、理香は嘘だと鼻で笑ったりしなかった。
火薬庫前の小さな常夜灯の明かりで、オレの右目から落ちた涙が見えたからかもしれない。
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