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「ずっと、夏生には言おう言おうと思っていたんだけれどね」
オレの言いたいことがわかったのかもしれない。
昭兄は困ったように笑いながら頭をかいていた。
「理香とは小学生のころから手紙や電話なんかでやりとりしていて、大学に進学して東京に住むようになった二年前から、付き合い始めたんだ」
「そう、だったんだ……」
三角関係の結末を、オレは勘違いしていた。
理香は志信ではなく、昭兄を選んでいたのだ。
小学生のころ、理香の話をすると口を閉ざして不機嫌になるオレを見て、昭兄は弟が彼女のことを嫌っていると思いこんだ。
そして大学生になって理香と付き合うようになっても、またオレが不機嫌になるんじゃないかと懸念して、この話をなかなか打ち明けられなかったらしい。
たしかに三角関係のウワサを耳にしたり、昭兄から直接理香の話を聞いたりするたびに、イライラしていた記憶がある。
オレは恋心を自覚する前の小学一年生のころから、理香のことを、志信を誘惑する恋のライバルだと一方的に決めつけていたのかもしれない。
恐ろしい子どもだ。
「とにかくそういうこと。昭彦はあたしの恋人なんだから、あきらめなさいよね」
「あ、はい」
「なによ、そのあっさり。さっきはあきらめられないとか言ってたくせに」
「それは、勘違いしてたから」
「勘違いって?」
「だから……。理香さんの恋人は昭兄じゃなくって、しのだと思ってたから」
「は?」
驚き顔の昭兄と理香の視線から逃れるようにうつむく。
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