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 七月真ん中の、週末。  浴衣を着た宵待ちの子どもたちが、道端にたむろする夕刻。 「なっちゃん、花火何時に上がるの」  見上げてくる男の子のキラキラした目と目が合うと、自然と笑みがこぼれる。 「八時ごろかな」  水の入ったゴム風船の割れた音に悲鳴と笑い声が起きる。  集団から離れ、道端でひとり泣いている小さな女の子が母親とはぐれてしまったと言うから、オレは彼女の手を引いて、町内の夏祭りがひらかれる広場をめざした。  いつもは無人のだだっ広いだけの場所に、紅白の提灯が飾られ、町民のボランティアによる屋台が設けられている。  女の子が唐突に手を放して駆けだして行ったさき、感動の再会を果たしている母子を見届けてから、オレは自治会の仮設テント内にいる父さんに近づき、背後から肩を叩いた。 「用意したよ」  振り返った父さんが頷く。  広場から百五十メートルほど離れた場所に、上村煙火の従業員と協力し、打ち上げ花火の準備を整えた。
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