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志信の部屋で用意してもらったレモンスカッシュを受けとり、オレは緊張を隠してなにげなく話しかけた。
「でも、昭兄は真面目な人なのに、結婚前に子どもができたのがちょっと意外」
「詳細はわかんねーけど、理香が結婚に焦ってたから押し切られたんだろうな」
「理香さんはなんでそんな早く結婚したかったの?」
「小学生のころから理香は昭彦一筋で、やっと付き合えたと思ったら、毎日のように弟の話を聞かされてたらしい。そんで結婚したいって逆プロポーズしたら、そんときも弟が一人前になってからって理由で保留にされたってさんざん愚痴聞かされた。まあ本人たちに聞いたわけじゃねーから推測だけど、昭彦はまだ結婚する意志がなかったんだから、理香がなにかしらの意図をもって避妊をさせなかったんじゃね?」
「……なるほど」
昭兄はオレが一人前の花火職人になるまで、結婚しないつもりだったらしい。
昭兄は、本当なら跡を継ぐ立場である自分が進学したことで、オレに選択の自由がなくなったことをどこかで悪いと思っていたのかもしれない。
オレはちゃんとやりたいことをやってるから、好きなときに結婚していいよって、明日会ったら言おう。
と、そんなことより――
「そうだとしたら、昭兄は全然悪くないじゃん!」
なにも悪いことをしてないのに、理香の両親に謝罪までさせられて理不尽だ。
レモンスカッシュを飲み干して、空のグラスをカン、と音を立ててテーブルに置いたら、志信が膝歩きでこっちににじり寄ってきた。
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