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落ち葉やゴミを拾って周辺の土に水を撒き、軽トラックで運んだ打ち上げ筒に花火玉を仕込む。
電気コードを繋げ、配線がうまくいってるか通電テストを済ませたあと、上げる直前まで花火玉が湿気らないよう、筒の口にシートをかぶせてきた。
あとは打ち上げ時刻を待って最終点検をおこない、遠隔操作でスイッチを入れれば、花火が上がる。
オレは志信がいなくなって(あいつが帰ってくる夏以外)抜け殻のようになりながらも、工業高校に進学し、必要な資格を集めつつ、卒業後も着々と父の跡を継ぐための道を歩んでいた。
長男である二つ上の昭兄はこの田舎町が誇る秀才で、地元民たちの期待の目もあって、花火職人になるという選択肢も与えられないまま、東京の国立大学の法学部に進学した。
昭兄が家を出た二年前からは、いまも東京在住の志信と二人そろって、夏休みの一か月、ここへ帰ってくるようになった。
「来てるぞ」
父さんの指さすさきに人だかりができている。
オレは速まりだした心臓のあたりを手のひらでおさえて、ばれないようこっそりと、ひとかたまりの主婦の群れに近づいた。
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