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突然、ザーっという強い雨音が室内に響き渡る。
加代子はその音に驚きを隠せなかった。
5分ほど前に大学から帰宅したばかりだったのだが、帰路はずっと青空だった。カラッとした空気で雨の気配など微塵もなかったからだ。
加代子は思わずベランダに目を向ける。
カーテンを閉めていない窓から雨がベランダに入って来るのが見えた。
ただ、太陽が隠れていないのか、雨は降っているのに窓の外は明るいのだ。
加代子は少し急いでベランダに出てみる。
雨の向こうに太陽が見えた。
加代子は思わず、「ヨシ」と拳を握る。
加代子の目は輝き、唇の端は持ち上がっていた。
「虹が見えるかも」
思わず漏れる言葉。
誰もいない部屋に加代子の声が吸い込まれていく。
加代子は玄関に向かった。
ベランダの向かいが玄関だ。
そう、つまり、虹が見えるのは玄関側ということだ。
加代子は玄関でゴム製のサンダルを履いた。
そして、一旦止まり、大きく深呼吸をした。
加代子は心の中で「どうか虹が見れますように」と祈った。
手を玄関のノブにかける。
ゆっくりとノブを回した。
扉を開けると雨はすでに上がっていた。
そして、予想通り虹が見れた。
虹は眼下に広がる住宅地の屋根から遠くに見える山の中腹にかけて空に半円を描いていた。
段々と色が濃くなっていく。
加代子は「ホゥ」とため息をつく。
アパートの柵に両手をついて、虹が消える数分をそこで過ごす。
あまりにも美しい光景で毎日坂道を登りアパートの3階まで階段を使うしんどいさをチャラにしてくれると加代子は思った。
ここのアパートの見学の日もこんな虹が見えて、親は通学が大変だからと反対したけど、加代子は迷わずこの部屋に決めた。
綺麗な半円を描く虹を見ながら、この部屋がいいと決めて良かったと加代子は心の中で過去の自分に感謝した。
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