美術室の幽霊部員

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「……どうしたの?」  曖昧な表情のまま固まる私を見かねてか、少女は私の方へ歩みを進めると顔を覗き込んだ。私は何か言い訳をしようと必死に頭を動かしていると、ふと手中に収まるカメラに内蔵されたデータの存在を思い出した。  私は急いでデータを確認すると、そこには自分の予想通り神社の写真が残っていた。似た構図のものが多く全体が見渡せるものは無かったが、一番はっきりと景観がわかるであろう写真を選んで液晶画面を少女に向けると、不思議そうに瞬きを繰り返していた少女の目がみるみるうちに大きく見開かれた。 「ええー! すごいっ……! そうだ、思い出してきた!」  嬉し気に声をあげる少女を眺めながら、私はほっと胸をなでおろした。でもそれは、先ほどの問いかけを打開できた安堵感だけではなかったように思う。  何の気なしに撮影した自分の写真が、まさかこんな形で誰かの笑顔に繋がるだなんて予想だにしていなかった。  顔を綻ばせて写真を見つめる少女の前で、私は部室の机に入れっぱなしにしていた写真の存在を思い出した。少女に断りを入れて駆け足で部室へ向かうと手あたり次第神社が映った写真をかき集め、美術室へと運んだ。 「これ、私が撮った写真……他にも見たい角度とかあったら撮ってくるから」  バラバラと机の上に置かれた写真を、少女は喜々とした様子で眺めていた。そしてそのうちの一枚を持つと再びイーゼルの前に座り、写真を眺めながら鉛筆を持つ手を動かした。  小気味よい音が辺りに響く。それは先ほどよりも長い時間続いた。やがて少女は深くため息を吐いた後鉛筆を置くと、目を輝かせながらこちらを振り返った。 「こんなに続けて描けたのは初めて! この写真のおかげだよ、ありがとう!」  目を細めて笑う少女の奥で、しっかりとした線で結ばれたスケッチが見える。それは、先ほどと比較にならないほどに力強く見えた。
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