初体験

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 そうして食事も喉を通らず、レストランを出てまた遊び始めてからも……。 「──アハハハハ…楽しいね、夜子さん!」 「…は、はい……」  くるくる回るコーヒーカップのアトラクションで、彼は笑い声を響かせながら大いにはしゃいでいるが、わたしは周囲の目を気にしつつ、生返事をすることしかできない。  また、ジェットコースターでも……。 「──ウォオオオオーっ! ……ヒェエエエエーっ…!」 「…………」  急降下の後、高速360度回転するコースターに絶叫すり彼のとなりで、わたしはただただ身を固めているだけだ。  さらに、アーチェリーをキューピットの弓矢に見立てたカップル向けの射的ゲームでは……。 「──ああ! 惜しい! ダメだったかあ……じゃ、今度は夜子さんの番だ」 「は、はい……それでは……」  的を外した彼がキューピットの弓矢を渡し、今度はわたしにチャレンジするよう催促する。  こんな時、定石としては彼を立ててわたしも外すべきなのだろうが、緊張のあまりついつい無意識に弓を射てしまった。 「大当たり〜!」  わたしの放ったハート形の(やじり)を持った矢は、見事に的のど真ん中へと命中する。  弓の経験は多少あったりなんかするので、この程度の遊びなら難なく当てられるくらいの腕はあるのだ。  マズイ……ついついわざと外すのを忘れた……プライドの高い彼のことだ。女の子に負けたとあっては気分を害したりしないだろうか? 「すごい! ど真ん中に命中だよ、夜子さん! 弓が得意なんだね! これは僕もハートを射止められちゃうかもね。アハハハ…!」  ところがわたしの心配に反して、いいように捉えた彼はむしろ気をよくしてくれる。  ボンボンの金持ちなのでワガママで気難しいとか、金にものを言わせて会社の女の子に手を出しまくってるとかいろいろと悪いウワサはあるが、じつは案外、純粋でイイ人なのかもしれない。
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