初体験

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 そして、ほんとに先程の射的ゲームの如く、彼のハートを射止める(・・・・・・・・)ための、いよいよそのチャンスの時が訪れた……。 「──じゃ、次はここに入ろうか?」  射的の後、彼が選んだのはお化け屋敷だった。  ジェイソンやブギーマンのような、殺人鬼的モンスターをモチーフとした、スプラッターな洋風のお化け屋敷だ。 「は、はい……」  これまで通りに頷きながらも、わたしは心の中であれこれとあざとく作戦を巡らす。  お化け屋敷ならば、中は暗いし他人(ひと)の目もなく、また、怖いふりをして違和感なく密着することもできる……勝負に出るならば、ここにおいて他にはない! 「よ、夜子さん……そんなにしがみつかなくても……」 「す、すみません……わたし、ホラーとか苦手で…きゃーっ…!」  廃墟のビルに見立てた真っ暗な通路を進みながら、腕に絡みつくわたしを彼が嗜めるが、おどろおどろしいおばけの仕掛けが出てくる度に、わたしは大袈裟に怖がって、ますます彼に身体を密着させてゆく……。  口ではああ言っているものの、彼もまんざらではない様子だ。  そうして、わざとらしく悲鳴をあげながら、お化け屋敷の順路をしばらく進んだ後……。  辺りにはおばけ役のスタッフもおらず、誰からも見られることのない、絶好のシチュエーションがわたし達の周りに展開される。 「あ、あの……大治さん……ちょっと目を閉じていただいてもよろしいですか?」  絡めた手を引いて彼の足を止めると、振り向く彼にわたしは頼みごとをする。 「……え? なに? ……まあ、別にいいけど……」  すると、彼はその言葉の意味を薄々勘づいているらしく、それを表面上は隠しながらも、内心、期待をしている様子で静かに目を閉じた──。
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