壊したいほどに

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「消えろ!消えろ!消えろ!」 「正太さん」 背後から声と同時に、正太の肩に手が乗る。 振り返ると、白衣を着た男が立っていた。 「もう、いいんですよ」 男は正太の頬を両手で叩いた。 「……え」 正太は気がつくと、椅子に座っていた。 頭には機械が被らされている。 「帰ってきましたね。大丈夫ですか?」 正太の前に医師が立っていた。 医師は近くの机に置いてあった端末を取り、読み上げる。 「過度のストレスによる疲労、不眠、精神不安定…ほぼ休日なしで平均勤務時間が十五時間、働きすぎです」 医師は正太の頭に被せいていた機械を外す。 「さっき、会社をハンマーで壊す夢を見ていました」 正太は見た夢の内容を医師に話した。 「それはストレス原因を消そうとしたのです。この機械を使って正太さんのストレス原因であるものを元に、仮想世界を作りました。そこでストレス発散をしてもらいましたが、気分はどうですか?」 医師は機械を片付けながら、正太に今の調子を聞いた。 「…最高でした」 正太は口角を上げながら答えた。 医師は正太の腕に巻いていた機械を見て、うーん…と唸る。 「心拍数がすごく上がってますね…満足しているというより、不安な気持ちのほうが強くデータとして出てますよ」 医師は端末の画面を正太に見せる。 不安、後悔、罪悪感の数値が他に比べて高い。 「はは…本当は嬉しいはずなのに、こんな気持ちになっているとは…会社が憎いはずなのに」 「それはきっと、正太さんが真面目だからですよ」 「真面目…ですか」 医師の言葉を聞いて、正太は肩を落とす。 「働くのは大事ですが、ほどほどがいいんです。壊れるまでやると、治るまでに時間がかかってしまいますから。会社側に改善を求めるか、転職を考えてみて下さい。それでは、お大事に」
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