この献血バスは心臓に悪い

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「どんなゲームだよ……でも不良じゃないにしても、松田って実際、感じ悪いとこあるよな」 「うるせーよ。否定はできないけど」  不意に、海翔と松田の視線がピタリと重なった。(ほころ)んでいた相手の表情が、だんだんと真顔に近いそれになり、視線が無言で絡み合う。凜とした鋭い眼差(まなざ)し。真夏の外気に煽られているかのように、顔が、胸が熱い。  女の子といた時、こんな気持ちになったことはあっただろうか。 「……思ったより早く終わっちゃったな。4限まで何しよう」  耐えられなくなって海翔は目を逸らした。変に明るい口調になったかも知れない。 「4限って、環境学のことか?」 「うん」 「今日休講だけど?」  一瞬ポカンとしてしまった。すっかり忘れていた。 「うーわ、マジか。もっと早く気づいてたら遊び行ってたのに」 「……彼女と?」  松田のやや唐突な問いが宙に浮いた。 「悪い。言い方間違えた気がする」  今度視線を泳がせたのは松田の方だった。顔が真っ赤だ。  一体どういうことなのか説明してほしい。猛烈に。でも、こっちからそこへ一歩踏み込む勇気は海翔にはなかった。胸がはっきりと高鳴っているのを自覚しながら、海翔は代わりにこう答えた。 「彼女、ね。おとといまではいたんだけど。なぜか1週間以上続いたことがないんだよなー」  視線が戻ってきた。 「なら……鈴木がよかったら、今からどっか行く?」 「松田と?」 「嫌、か?」  誘われたことにも、熱を帯びた少しかすれた声にも、胸が素直に反応してしまう。遠慮気味に窺う瞳も厄介だった。全く、この献血は何から何まで心臓に悪すぎる。  松田もまた、決定的な部分には踏み込まない。けれどこの瞬間もきっと、松田の心臓は海翔と同じように波打っている。 「よ、よし。行くか」  海翔達はギラギラする太陽の下に出た。  キャンパスは既に3限の時間で、お昼時は賑やかな生協周辺も人が(まば)らだった。アスファルトの道に並ぶ木々の葉が濃い緑色に輝いている。さてどこに行こうかと、海翔は松田の整った顔を横目に揺れ惑う。  夏の深まりを予感させるセミの音が、大学中に響き渡っていた。  
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