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『目、合いましたね』
心の底から声がした。
視線の先に、小学生くらいの身長の女の子が、ベンチに座っていた。傘もささずに、ただじっと動かない。
こんな雨の中で、一体何を……?
恐怖四分、好奇心六分で彼女の方に近づこうと公園に足を踏み入れる。
『滑りやすいですよ』
その声は、耳からでは無くて、やっぱり心の底から聞こえている気がして、凄く不思議だった。心で会話している感覚が、何とも言い表し難い。
水溜りを避けるようにして、女の子が座っているベンチの隣にたどり着いて、僕は彼女の頭上に傘をかざしてやった。
そしてふと、彼女の手元に視線を落とす。
"雨音ノート"――
明るい水色の表紙に、大きく"雨音ノート"と書かれていた。水を弾く機能がついているのか、こびりついた水滴がつーっと地面に下垂れ落ちる。
『傘、大丈夫です。あなたが濡れてしまいます』
少しの間、僕は迷った。女の子をこのまま濡らしておいてもいいものか。
『むしろ、余計なお世話です。濡れてこそが私の役目』
そう言われて、僕は傘を彼女の頭上から除けた。
濡れてこそが女の子の役目。言っている意味がよく理解できなかった。
「あの!こんなところd」
『口で話されても私、分かりません』
なるほど、以心伝心ってやつか。
どうやってするんだろう。そう悩む僕の脳内を、彼女の声がよぎる。
『目を閉じて、相手、今は私……を、頭に思い浮かべて』
目を閉じて、女の子を頭に思い浮かべて念じる――。
『あの!こんなところで何をしているんですか?』
出来た。出来たような気がする。
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