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動く
「何とも思ってない子に、自分の予定より優先して送り迎えすると思う?」
私より頭ひとつ以上背の高い彼の声が、頭上からと、彼の胸からと両方から聞こえる。
背中に回された腕の力強さとは裏腹に、その声は吐息に混ざったような弱々しさがあって、切実さが伝わってくる。
「……ごめんなさい。いつも、それが当たり前だったから」
「当たり前か。そうだね、そうやって美和に侵食していこうと思ってたんだよ。」
「侵食って……なんか、怖い。」
かろうじて動くことができる首を上げ、顔を見上げると、「もう少し聞いてて」と再び彼の胸の中に顔を戻された。
「美和が、俺がいないと不安になるくらい俺に依存させるのが理想だったんだけどな。そうも言ってられそうに無くなった。」
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