1.宇宙王子にご用心!

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「綺麗なお顔はいいから、もう帰ろうぜ? あいつがこれ作ったんなら、なんかあぶなくね?」  りんこの言葉に不機嫌になったジューデンが、さっさと帰ろうとする。  本人は隠しているつもりだけれど、ジューデンはりんこが気になっているんだよね。  りんこもそれをなんとなくわかっていて、ジューデンをからかったりしている。  僕から見れば、りんこも照れ隠しをしているだけのように見えるけれど、それはそれで、暗黙の了解で言わないことになっていた。  でも今は、いつものからかい顔ではなくて、どっちかというと困った顔だ。 「帰るなら、ちょっと遅かったかもね」  りんこの言うとおり、僕たちに気づいたらしい男の子が、ミステリーサークルの上をつま先だちで近づいてくる。  くるくる巻かれて模様を作っている草を、なるべく踏まないように、こっちに来ようとしているらしい。 「踏みたくないなら、外側から回ってくればいいのに」 「そうよね、せっかく端っこにいたのに」  僕の言葉にりんこもうなずく。  ジューデンは何も言っていないのに、そうだそうだと言わんばかりに、得意そうにふんぞりかえった。  男の子は、壊れかけたおもちゃみたいに、自分の踏んできたミステリーサークルをぎこちなく振りかえってひとしきりフリーズすると、さっとこちらに向きなおって、柔らかな笑顔を浮かべてみせた。 「これ、ぼくが作ったんだ。よくできてるだろ?」 「……踏んできちゃったの、完全になかったことにしたね」  柔らかでさわやかな笑顔が、そのまま固まった。  カラスが鳴きながら公園を横切って飛んでいき、沈黙が流れる。  少しかわいそうになってきたので、僕は質問を変えることにした。 「すごいとは思うんだけど、どうやって作ったの? っていうか何のために作ったの?」 「ふふ、見られてしまったからにはしょうがないね。そんなに気になるかい?」 「いや、自分で作ったって言ったじゃん。大丈夫?」  少し引き気味に構えた僕たちに、男の子はさらにきらきらした笑顔を浮かべてみせた。 「実はぼく、宇宙人なんだ」 「うん……うん?」  ついさっき、それは何時代の常識だと上から言われたばっかりだったので、変な声が出てしまう。  もちろん言いかえしてくれるんだよね?  促すようにジューデンを見上げると、ジューデンは諦めたように頭のうしろで両手を組んで、前に出た。 「ミステリーサークルは人の手で作られてるってのが、最近の常識らしいぜ?」 「そうだね」  実にさわやかに、男の子が笑う。夕方なのに白い歯がまぶしい。 「そういう解釈が地球で一般的になるようにがんばったからね、うまくいっているようで安心したよ」  なるほど、少しかわいそうとか考えるんじゃなかった。  どうやらあまり、関わりあいにならない方がいい相手だったみたいだ。  さわやかな笑顔に見とれ気味だったりんこも、はっと我に返って、あとずさっている。
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