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「綺麗なお顔はいいから、もう帰ろうぜ? あいつがこれ作ったんなら、なんかあぶなくね?」
りんこの言葉に不機嫌になったジューデンが、さっさと帰ろうとする。
本人は隠しているつもりだけれど、ジューデンはりんこが気になっているんだよね。
りんこもそれをなんとなくわかっていて、ジューデンをからかったりしている。
僕から見れば、りんこも照れ隠しをしているだけのように見えるけれど、それはそれで、暗黙の了解で言わないことになっていた。
でも今は、いつものからかい顔ではなくて、どっちかというと困った顔だ。
「帰るなら、ちょっと遅かったかもね」
りんこの言うとおり、僕たちに気づいたらしい男の子が、ミステリーサークルの上をつま先だちで近づいてくる。
くるくる巻かれて模様を作っている草を、なるべく踏まないように、こっちに来ようとしているらしい。
「踏みたくないなら、外側から回ってくればいいのに」
「そうよね、せっかく端っこにいたのに」
僕の言葉にりんこもうなずく。
ジューデンは何も言っていないのに、そうだそうだと言わんばかりに、得意そうにふんぞりかえった。
男の子は、壊れかけたおもちゃみたいに、自分の踏んできたミステリーサークルをぎこちなく振りかえってひとしきりフリーズすると、さっとこちらに向きなおって、柔らかな笑顔を浮かべてみせた。
「これ、ぼくが作ったんだ。よくできてるだろ?」
「……踏んできちゃったの、完全になかったことにしたね」
柔らかでさわやかな笑顔が、そのまま固まった。
カラスが鳴きながら公園を横切って飛んでいき、沈黙が流れる。
少しかわいそうになってきたので、僕は質問を変えることにした。
「すごいとは思うんだけど、どうやって作ったの? っていうか何のために作ったの?」
「ふふ、見られてしまったからにはしょうがないね。そんなに気になるかい?」
「いや、自分で作ったって言ったじゃん。大丈夫?」
少し引き気味に構えた僕たちに、男の子はさらにきらきらした笑顔を浮かべてみせた。
「実はぼく、宇宙人なんだ」
「うん……うん?」
ついさっき、それは何時代の常識だと上から言われたばっかりだったので、変な声が出てしまう。
もちろん言いかえしてくれるんだよね?
促すようにジューデンを見上げると、ジューデンは諦めたように頭のうしろで両手を組んで、前に出た。
「ミステリーサークルは人の手で作られてるってのが、最近の常識らしいぜ?」
「そうだね」
実にさわやかに、男の子が笑う。夕方なのに白い歯がまぶしい。
「そういう解釈が地球で一般的になるようにがんばったからね、うまくいっているようで安心したよ」
なるほど、少しかわいそうとか考えるんじゃなかった。
どうやらあまり、関わりあいにならない方がいい相手だったみたいだ。
さわやかな笑顔に見とれ気味だったりんこも、はっと我に返って、あとずさっている。
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