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〈再び矢が迸る日に〉
———雲嵐を追った小鷹の後を何故あれ程の影衛隊が追えたのか?
彼らには、ある決まりがある。
それは標的や皇帝を見失わない様に水に染料の材料となる元を入れ、着色してそれを道すがら溢すことである。
いつも常備している飲み水の容器には蓋の所が工夫されており、下に返せば少量ずつ水滴が溢れるようになっていた。
そのお陰で影衛隊は皇帝の後を追えたのだ。
ちなみにそれの発案者は小鷹で影衛隊の一番隊・副隊長である。
特に素早く追尾能力が優れているのも、その役に抜擢された理由の一つ。
それでもその小鷹さえも雲嵐は時々上手に撒いてしまうのだが。
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———あの後、馬を引いてきた他の一番隊の数人の影衛隊は雲嵐の護衛として付き添っていた。
残り二番隊、三番隊は雷浩宇の行方を追っている。
随時報告が入るだろう。
何事もなかったかの様に馬に乗る雲嵐を小鷹は遠目に眺めた。
それから後方にいる、他の隊員の馬に同乗している明らかに様子の変な雪花にも、ちらりと目を遣った。
ああ、どうしたものか————。
先程のあれが見間違いでなければ陛下は雪花を…ということになる。
これは実は凄い事なのだ。
そもそも皇帝が恋愛に現を抜かしている暇などない。
敵は何も雷浩宇だけではないのだ。
不穏な動きをする現皇太后・由麗麗や丞相の金劉帆などにも目を光らせて置かなければならず、一時たりとも気が休まる日はなかっただろう。
後宮には煌びやかで妖艶で誘惑を囁く側室たちが居るのにそのどれにも反応しなかった。
一年前に雪玲妃の陰謀から陛下を救ったという貴妃、静芳様さえも。
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