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———けれど悪夢は、それからすぐにやってきた。
「いやあああ!嫌だああ、お父様、お母様ああっ!!」
淡い雪が散らつく夜だった。
朱国の四代目皇帝・任冬雹は自ら軍を率いて鷲国の王宮に攻め入り、氷水と雨音の前で無惨に王と王妃を惨殺した。
僕はその一部始終を玉座の間の隅に隠れて、震えて見ていることしかできず。
「陛下、この末の王子はどうします?」
兵の一人が、怯える幼い雨音に対し、血糊がついた剣で指しながら処遇を尋ねた。
「…ふん、放置しておけ。
まだガキもガキだ。
どうせ長くは生きれないだろう。」
冷酷な表情をした冬雹の抑揚のない声。
「それなら姫の方はどうしますか?」
ブルブルと震えて父母の遺体を見つめる氷水を見て、冬雹は言う。
「…そいつは連れて来い。
面白い余興を思いついた…!」
「いや、嫌だ!離して!嫌っ!
嫌だああ!いやあああ!!」
兵にあっさりと抱え上げられた氷水は、泣き叫びながら手足をバタつかせたが、抵抗も虚しくその場から連れ出されてしまった。
……氷水!!
やがて静かになった玉座の間に出た僕は、そこで泣いて震えている雨音に向かって叫んだ。
「雨音さま…姫さまが…氷水さまが攫われました!!
今すぐ追いかけて助けましょう…!」
だが雨音は当時まだ、たった8歳だったのだ。
目の前で両親を惨殺した冬雹に怯えるのも仕方のない話しだった。
「嫌だ……!怖いよっ……!
あんな野蛮な奴に二度と会いたくない!」
そう言って雨音は僕の手を振り払い、軟弱に地面に臥して泣き続けた。
僕もまた幼くて、それに無性に腹が立った。
結局氷水を助けるために僕は一人、死物狂いで奴らの後を追うことにした。
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