〈届かぬ想い〉

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 当時、朱国では奴婢で幼い少年の宦官達を数多く使っていた。  何とか朱国まで辿り着いた後、上手いこと宦官に召し上げられる少年達に紛れて、宮廷に入り込むことが出来たが。  朱国の正殿に凱旋した冬雹は、そこで氷水を床に平伏させ、高い玉座から声を荒げて言う。  「俺は、この鷲国の姫を今夜側室にする!」  「!!」  その時、残虐な暴君である冬雹に異議を唱えるものはおらず。乾いた拍手だけが聞こえた。  「いや、嫌だ……!  お父様やお母様を殺したあの男に嫁ぐなんて絶対に嫌…っ!  殺して…殺してよ!誰か!誰か私を殺してよ!  いやだあああ!」    ……沢山の宮女達によって奥へと連れて行かれる氷水の泣き声に、僕の身は引き裂かれそうだった。  氷水………!氷水!  氷水……………!!  今感情に任せて助けに出て行っても、僕などすぐに朱国の野蛮な兵らに八つ裂きにされてしまうだろう。    …冷静に考えるんだ。  確実に氷水を救い出す方法を。    ……今の僕にはどう考えても氷水を助けられない。  けれど必ず……必ず君を助け出すから。  待っていて、氷水………!    何とかこの朱国で宮廷に潜り込むため、僕は城下の地主の家で奴婢として買い入れてもらい、仕事をしながら科挙試験(※宮廷に務める優秀な人材を選ぶための試験)で文官を目指すことにした。    その為には何でもした。  主人に気に入られるために媚を売り、そのうち身体も使って奉公するように。  氷水を助ける為なら自身の身体が汚れても、どうでも良かった。  少年が趣味だという変質趣向の主人は喜んでこの身体を貪った。  だがそのお陰で誰よりも主人に可愛がられた僕は、科挙試験に向けての教本を買い与えられたり、労働を免除されたり、特別に勉強する機会を与えられるようになっていく。  元より試験に合格する自信はある。  鷲国ではそれなりに教育を受けていたし、乱家では天才とまで言われていたからだ。    「…聞いたか?  鷲国から連れて来た姫が、一夜にして妊娠したって話し。」  「へえ、すごいな。  まだ成人にも満たない娘だろ?  冬雹様も良くやるな…」  「しっ、声がでかいって!」  「…初めてのお子が男子なら太子様か!これはめでたいことだ。」    街の中ではあの夜、無理やり側室にされた氷水が皇帝の子を孕んだという噂が流れていた。  それを唇を噛み締めながら聞く悔しさ。  あの時彼女を助けられなかった我が身の無力さ。    皇帝の子……!?  そんなもの……産んだら駄目だ、氷水。  産んだって不幸になるだけだ!
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