3人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
森本君は実家に泊まって、明日寮に戻るって言うから駅まで一緒に行くことになり、井手君はこれから大学の友達の部屋で始まってる飲み会に合流するんだって。
私はここから自分の部屋まで帰るのに一時間以上かかるから、普通にここまで。千里は自宅だし、『まだ20歳になってないし、お酒を飲みたいとも思わないから』ってことで、同じく帰宅組だ。
時計を見ると既に22時近いから、私はまっすぐ自分の部屋に帰って23時を回るかな。受験生の頃はこの時間まで塾にいたけれど、大学生になってからはそもそも電車に乗ることがないから、こんな時間の電車に乗るのは本当に久々だ。
そう思いながら、幹事を務めてくれていた子にお礼を言って…コートを羽織って夜の街を四人で歩き出そうとしたとき。
「結花」
道の反対側から大好きな声が聞こえた。
「…凌…」
あれ、隣に北見先輩もいる。
やっぱり凌に助けを求めたんだな。思わずニヤッとしてしまいそうな自分を抑えて、普通の態度を装う。
千里が隣で固まってるので、どうしようかなと思ってたら、北見先輩がちょっとピリッとした雰囲気で私たちの後ろに目をやった。
どうしたんだろう…と思っていたら、北見先輩が近づいて、ふっと表情を緩めた。
「あ、井手と森本じゃん。
久しぶり」
暗かったからわからなかったのか。
私と千里の頭の上を通して、後ろに声をかけてる。
ちょっと後ろを振り向くと、さっきまで一緒にいた井手君たちが私たちから数歩離れて両手を挙げてた。
「澤田先輩、北見先輩。お久しぶりです。
…敵対意志はありません」
凌が状況を察して笑いながら、井手君たち二人の頭をぐりぐりって撫でにいった。
「わかってる。
ガードしてくれてたんだろ?
サンキュ」
常にレギュラーの中心にいた凌たちと、特進クラスの部員だった井手君たちに、直接の関係はそんなになかったはず。練習だっていつも別メニューだったし、一緒に行動したことなんて、もしかしたらなかったんじゃないだろうか。
でも、凌は一年生全員を把握しようと努力してた。
私たちマネージャーに助力を求めてきたのは、自分だけではそれができないとわかっていたからで、人の目と手を借りてでもちゃんと全員のことを知りたいと望んだ。
だから、井手君たちも凌や北見先輩のことを心から慕ってくれていると思う。
最初のコメントを投稿しよう!