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「…あんな人だったっけ」
井手が遠い目をして、彼らが去っていった方を眺めてる。
俺が高一の頃、結花を拉致した上級生に対応してもらうために、北見先輩に動いてもらったことがある。
あの時の北見先輩の印象とは…完全に別人だ。
はっきり言って、チャラいというか。
部活に対しては本当に真剣で誠実だったとわかっているけど、女性関係は…多少きな臭い噂もあった人だし。
やっかみもあったんだろうと思う。
北見先輩自身が、意図的に悪ぶってた可能性も十分あると思うよ。
でも、あの真面目な千里を好きになって、半年かけて口説き落とすとか。
聞いた時は何の冗談かと思ったな。
澤田先輩は…もともとみんなに親切で、特進の俺たちにも声をかけてくれるような典型的なキャプテンだった。結花に対して優しいなというのは、結構最初の頃から感じてたかな。
それでも、現役時代はちゃんと一線を引いて、ルールを守り切った人だ。
心から尊敬してるし、サッカー部員としては本当にレベル違いの俺たちのことをちゃんと覚えていてくれるところも、大好きだ。
でも、いずれにしても正直同窓会の終了時間に迎えに来るってのは、想定外。
「…ちょっと怖かったな」
俺たちが千里と結花の傍にいたのは、サッカー部の仲間として懐かしかったのが半分と、間違っても何か事故があってはいけないという使命感に駆られたからだ。
入学当初の『結花と千里を守れ』という指示は、もう一学年上の木村先輩と翔さんから出たものだったけど、完全に俺たちの身体に染みついてるから。
決して、あの二人に対する義理立てというか、『元クラスメイトの男が間違って声をかけてあの二人にばれたらまずい』という発想ではなかった。
でも、結果的に大正解だったな。
俺は今夜本当に実家に帰る予定だけど、井手は二次会に参加したって良かったんだ。こいつはもう20歳を超えてるし。
でも、こそっと打ち合わせて二人を電車のホームまで送るつもりでいた。
さすがに繁華街だし、最初に見て俺たちも『おっ』と思うくらい、二人とも外見が女らしくなってたから。
元々男だったからな。俺たちにとってはジャージじゃないということで女らしく見えただけかもしれないけど。
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