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店を出た瞬間、北見先輩からの視線が刺さった。
俺たちはあの二人と同じピッチに立ったことはない。
でも練習の時はあこがれの目でずっと追っていたし、試合中だってそう。
ずっと味方のつもりだったのに、あの人から敵意を向けられたら…一瞬で身体が竦んだ。
反射的に結花と千里から一歩離れて、両手を挙げた。
洒落にしないとやばいと思って。
北見先輩は、俺たちだとわかったら敵意を引っ込めてくれたし、澤田先輩は初めから俺たちだと気付いてくれてたのかな。
「…想像したら殺されそうだけど、二人とも大変そうだな」
あの二人があそこまで男として意思表示してくるんだから、自宅暮らしの千里はともかく結花は多分、これからそういうことになるんだろう。
むしろ、後日改めてとなる千里の方がすごいことをされちゃったりするんだろうか。
「現役時代のあの人たちからしたら信じがたいけど、まぁ幸せに過ごしてくれてるならいいんじゃないか。千里も結花も、嫌なら嫌と言えるだろうし」
井手はそんなことを言ってスマホをいじり始めた。
「まぁ、そうだな」
俺も井手も、結花と千里に対して仲間以上の感情は持ち合わせていない。
仮にほんのり想っていたとしたって、今日のあの人たちを見たら…
戦いを挑もうとは思わない。
それに、もしも万が一、彼女たちが本気でSOSを出してきたりするなら、彼ら以外の全部員が彼女たちの味方になって立ち上がるだろう。
多分その先頭は翔さんだ。
いくら俺らのヒーローだった伝説のツートップでも、絶対かなわない。
千里と結花は、殿前高校サッカー部を生まれ変わらせてくれた女神二人だと思ってる。中身は男だったけど。
逆方向の電車を待っていた井手が、ホームに入ってきた電車に足を向けて「じゃあな」と手を振ってる。
「ああ、またそのうち」
次に会えるのは…いつだろう。
大学卒業までにもう一度、こういう機会があるんだろうか。
ちょっと寂しいけど、俺は自分の夢に向かって一歩を歩みはじめたばかりだから。
寂寥感にふたをして、笑顔で井手に手を振った。
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