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なんて、失礼なことを思っていたら冷たい声が頭の上に降ってきた。
「お前、バカだろ」
…え、俺が悪い?
のろのろと顔を上げると、凌太郎は俺の隣で平然とコーヒーを飲んでる。
試合運び以外で俺がこいつにこんな言い方をされることは、めったにないんだけど。
思わず口をとがらせていると、凌太郎がため息をついてこちらを見た。
「まずさ、何で最初に千里が喜んでOKしなかったか、理解してんの?」
「…」
え、ただ単に恥ずかしかったんじゃないかと思ってたんだけど。
そういうところに連れ込むときは、雰囲気と…状況で察してくれてるんだと思う。俺もめったに、はっきりと「ホテル行こう」とか予告はしないし。
千里は元々、人前で手をつないだり抱き寄せたりするのすら恥ずかしがる子だから。嫌がってなければ俺も結構強引に連れ込んじゃうんだけど。
でも泊りの旅行に誘うってことは、そういうことも付随するわけで。
だから…かと。
そう喉元まで出かかったけど、だったらこんなことにはなってないということもわかるわけで、思わず言いよどんだ。
凌太郎に再びため息をつかれてしまった。
「お前はいいよ。遠征試合だってあるだろうし、俺んとこに遊びにくるんでもいい。なんだって理由は作れる。
でも、千里の親にどう言うつもりだった?」
ガツンと頭を殴られた気がした。
「…千里に、勝手に嘘をつかせるつもりだった?」
凌太郎は、逃がしてくれない。
こいつは、最初から千里の味方だ。
というより、千里を傷つける奴のことを結花が許さないから、こいつも一緒に千里の側。
その通りだ。
自分の気持ちだけで突っ走って、千里のこと…全然考えてなかった。
俺は、試合で遠方に行くときはチームごと泊まりで出かけたりするし、そのことは木村さんもうちに出入りしてるからうちの家族も普通に理解してくれてる。
男だし、多少ごまかして外泊したって別に平気。
でも。
千里はそうじゃない。
千里を泊まりで連れ出すんだったら、俺がちゃんと千里の家に頭を下げに行かなきゃいけなかったんだ。
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