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そして千里が、俺と泊りがけで出かけることを家族には言いたくないというなら、ちゃんと事前にアリバイ工作をしてから誘わなきゃいけなかった。
そりゃ、言えないよな。
言ったって、『わかった、行ってらっしゃい』なんて…普通の女の子の親は言わない。
俺が完全に理解したことを悟ったんだろう。
凌太郎はまた黙ってコーヒーを口へ運んでる。
千里とケンカしちゃった。
千里が会ってくれないんだけど。
話聞いて…とか言ってる場合じゃなかった。
完全に俺が悪い。
「…一人暮らしをいいことに、好き勝手やってる俺が言うのもなんだけど。
自宅にいるんだから、もうちょっとちゃんとしろよ」
こいつは、付き合い始めた数か月後に父親のいる長瀬家に乗り込んだ奴だ。
今では父親も四人の兄貴たちも、ほぼ味方にしてる。
俺はと言えば、千里が恥ずかしがってあんまり自宅に呼んでくれないのをいいことに、ガキみたいな付き合い方を継続中。
「…はい」
ちゃんと千里と話をしよう。
もしかしたら、このまま失っていたかもしれないと思うと、本気で肝が冷える。
とりあえず同窓会の解散時間が近いから、手をつけてなかったコーヒーを一気に喉に流し込んだ。
…まず。
冷めきってるのと、気分が最低なのとで、申し訳ないけど苦い液体でしかなった。
でも、いつまでも落ち込んでるのは性に合わないんだ。
幸い、あと数十分もすれば千里と会える。
時間も時間だから、今日ゆっくりってわけにはいかないけど、俺が理解したことを伝えて、改めて話をさせてもらう場を作るくらいのことは…きっとできるだろう。
千里は、行き違った理由を理解して話がしたいと言ってきた相手を突っぱねたりは…多分しない。そもそも、考えたくもないけど俺のことを既に見限っているのだとしたら、何も言わずに会わないまま誘いを躱し続けたりしない。もう駄目だと判断した時点で、きっぱり切り捨てにかかるはずだ。
…そうなる前に方向転換できて、本当に良かったと思う。
まだ間に合う。多分。
だったら。
「…年末、28日から30日って、休めたりしない?」
こいつらを本当に巻き込めばいいんじゃないか。
俺の目論見を一瞬で理解した凌太郎から、呆れたような視線が飛んでくる。
「…ホント、立ち直りが早いというか、経験豊富というか。
見習うべきだと思うよ」
別に恋愛経験は全然豊富じゃないんだけど。
凌太郎は自分と比べてそんな風に思ってるみたい。
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