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俺はもう習慣のように、かさばるマフラーを身に着けてる。
そんなに寒がりなわけじゃないけど、高1の冬に、自分の顔をさらした状態でやばいことをしちゃいけないとはっきり自覚して以来、これで自衛してきた。
凌太郎はうんざりしたように肩をすくめた。
「めんどくさい…帽子嫌い…」
だったらこれまで通り絡まれてろ。
まぁ、野球選手と違って俺らは基本的にどんな炎天下でも帽子はかぶらないからな。慣れてないけど。
そんな話をしていたら、待ち人たちが店から出てきた。
…男?
ご丁寧に二人に対して二人でちょっかい出してんのか。
牽制しにきて正解だな。
思わず好戦的な気分で歩み寄った。
「あ。ちょ…ま…」
後ろで凌太郎がなんか言ってるけど。
数歩近づいたところで、千里と結花が俺に気づき、後ろの二人が後ずさってハングアップした。
「澤田先輩、北見先輩。お久しぶりです。
敵対意思はありません」
そう言って笑ってるのは、特進クラスの後輩の井手と森本だった。
そのまま六人で駅まで移動し、それぞれの方面に分かれ…
ようやく千里と二人になる。
自宅までほぼ一時間。
22時を回ってるから、どこかに連れ込む余裕はない。
でも、この間みたいに逃げられるのももう勘弁。
そんなに混んでないからいいかと思って、電車の中で話をすることにした。
「千里、時間が遅いから…いろいろ謝りたいこともあるんだけど、後回しにして必要なことだけ話してもいい?」
もともと中身が男を自認してる子だ。
今でも、話し合いのときには感情的にならずにお互い冷静に意見を伝え合うのが俺たちのやり方。
そう思ったらやっぱりうなずいてくれた。
「私も、拓人に話さなきゃいけないこと…いっぱいある。後で聞いてほしい」
説教は聞くけど、別れ話とかは聞かないよ。
ポツポツ立ってる乗客に聞かれない程度の小声で話すために、小さな千里の腰をそっと抱き寄せた。
嫌がられるかとドキドキしながらだったけど、とりあえず受け入れてくれたから胸をなでおろす。
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