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千里の弟も、今年一年生でベンチに入ってた。
一番前で引っ張るタイプではないけど、堅実でいい判断をする選手だ。
今年に入ってすぐの頃、弟が入学前からグランドでの練習に参加してると聞いたから、こっそり探してみたんだ。
俺は、主に二~三年生のベンチ組以下を見てるから、直接関わることはなかったけど、監督にこっそり聞いて教えてもらったんだ。
千里の弟という時点で、俺は体格面を心配してたんだけど、その時点で俺と似たようなサイズだったから、驚いた。
「え、まじで」
監督から教えてもらった視線の先にいた男は、言われなきゃ千里の弟には見えない。言われても見えない。
監督も笑ってた。
「同じ親御さんから生まれて、どうしてあそこまで違うサイズに育ちあがるんだろうな」って。
でも、通りすがりにチラッと確認したら、千里とよく似た表情で笑ってた。
さすがにインハイは客席応援だったけど、秋にはほぼベンチ入りを決めた、頼もしい弟だ。
…あと何週間か、大会が続く予定でいたんだろうにな。
千里も、俺と似たようなことを思って、ちょっとしんみりしてるんだろう。
「うん。
ちょっと早めの休養期間に入ったからね…」
不思議なもんだな。
俺たちの頃は、都大会決勝まで残れたらみんな喜んでくれていたのに、今となっては、全国の二回戦で敗けてこのがっかり感。
でも、これが必要だと思う。
選手たちだって、『もっといけるはずだったのに』と思っているはず。
そして、どこに問題があったのかを、今それぞれ考えている。考えていなきゃいけない。
それがなければ、次にもっと強くなることなんてできないんだ。
そんな話をしながら、何度も通った川上家への道を歩いた。
もうとっくの昔に引退して卒業した古巣のことが、俺も千里も常に心に引っかかってる。自分のチームのことはもちろん大事にしていくけど、殿前がどこまで勝てるか毎回気にして勝敗を追って。
そんな自分のことが、結構気に入ってる。
一般的な、一戸建て。
まだ引っ越して十年経ってないから、周りの家も含めて新しい雰囲気だ。
進入路に小さめの車が止めてあって、そのわきを入っていく形。
門柱にポストが付いていて、二段くらい階段を上がっての玄関だ。
「ただいま…」
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