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 それから日曜日になると、茂雄は私と翔を連れて公園に出かけた。もちろん私の自転車の練習のために。  スイスイと自転車を乗りこなす翔を眺めていると、 「ママもペダル、つけてみる?」  茂雄が控えめに声をかけた。乗れる気は全くしないが、黙って頷く。遠慮がちに微笑んだ茂雄に、無性に腹が立った。そんな自分が嫌になる。  案の定、乗れるわけもなかった。  ペダルに右足を乗せて踏み込むと、ぐらりと車体が傾く。がしゃーん、と派手な音を立てて右側に倒れた。地面に打ち付けた膝が痛い。  のろのろと自転車を起こして、もう一度跨る。左足で踏み込むと、今度は少し進んだ。しかしすぐにまた、バランスを崩して転ぶ。膝やら肘やら、この短時間にどれだけ擦りむいたら気が済むんだろう。   「倒れる前にバランスを取って、ペダルを漕ぐんだよ」  茂雄が自転車を起こしつつ助言する。 「……わかってるよ」  答える声が不機嫌になって、茂雄が一瞬ムッとしたのがわかった。視界の端では、翔が楽しそうに自転車で広場を走り回っている。  マグマのように、熱い何かがこみ上げてきた。どくどくと心臓が早鐘を打ち、頭に血が上る。我慢していた言葉が、口をついて出る。
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