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 それきり茂雄とはぎくしゃくしたまま、少しずつ幼稚園の入園の日は迫っていた。翔もなんとなく親の不仲を感じ取っているのか、居心地悪そうに2人の顔色を窺っている。  入園の前夜。  寝室で翔を寝かしつけていると、とろんとした目をこすりながら翔は口を開いた。 「あのね、ママ」 「なあに」 「じてんしゃね」  どきんと心臓が跳ねる。彼の背中を叩いていた私の手が止まる。 「ぼくがいっしょにのりたいっていったせいで、ママつらかったね」  私は唇をかみしめて、眉間に力を入れた。そうしないと、涙が出てきてしまいそうだったから。  楽しそうに自転車に乗っていた翔。乗れたよ、と嬉しそうにしていた顔が少しだけ曇っていたのは、私のことを心配していたから……?  私はぎゅっと翔を抱きしめた。茂雄にも、こんなに小さな翔にも気を遣わせて、私はなんてばかなんだろう。  乗れないのは、勝手に僻んで卑屈になっていた自分のせい。どうせ乗れやしない、なんて思っている時点で乗れるわけなんかなかった。 「パパもね、じてんしゃにのるの、おしつけすぎちゃったかなあってなやんでたよ」 「そうなの……ごめんね、翔」 「ママはわるくないよ……」  私は首を横に振る。翔は目を細めて微笑んで、そのまま眠りに落ちていった。  
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