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6
それきり茂雄とはぎくしゃくしたまま、少しずつ幼稚園の入園の日は迫っていた。翔もなんとなく親の不仲を感じ取っているのか、居心地悪そうに2人の顔色を窺っている。
入園の前夜。
寝室で翔を寝かしつけていると、とろんとした目をこすりながら翔は口を開いた。
「あのね、ママ」
「なあに」
「じてんしゃね」
どきんと心臓が跳ねる。彼の背中を叩いていた私の手が止まる。
「ぼくがいっしょにのりたいっていったせいで、ママつらかったね」
私は唇をかみしめて、眉間に力を入れた。そうしないと、涙が出てきてしまいそうだったから。
楽しそうに自転車に乗っていた翔。乗れたよ、と嬉しそうにしていた顔が少しだけ曇っていたのは、私のことを心配していたから……?
私はぎゅっと翔を抱きしめた。茂雄にも、こんなに小さな翔にも気を遣わせて、私はなんてばかなんだろう。
乗れないのは、勝手に僻んで卑屈になっていた自分のせい。どうせ乗れやしない、なんて思っている時点で乗れるわけなんかなかった。
「パパもね、じてんしゃにのるの、おしつけすぎちゃったかなあってなやんでたよ」
「そうなの……ごめんね、翔」
「ママはわるくないよ……」
私は首を横に振る。翔は目を細めて微笑んで、そのまま眠りに落ちていった。
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