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夕食の終わったダイニングテーブルにノートパソコンを広げて、マップのアプリを開く。検索ウィンドウに、自宅から息子の通う予定の幼稚園までのルートを入力した。表示された道は、歩けば30分、車なら10分、自転車なら20分。なかなか遠い。私は深いため息をつく。
車の免許は持っていないので、必然的に徒歩か自転車で行くことになる。夫の茂雄は車を運転できるが、毎日送り迎えを頼むわけにもいかない。仕事でいつも帰りが遅いから、頼みようがないとも言える。
困ったなあ。
私はもう一度ため息をついた。目の前のマグカップに入れたコーヒーの湯気が、ゆらゆら揺れる。
「どうしたの、ママ?」
私の向かいに座って絵を描いていた、息子の翔が顔を上げる。私は慌てて笑顔を作った。
「なんでもないのよ。ちょっと困ってただけ」
「なんで? ママなんでこまってたの?」
最近になって「なんで?」を連呼するようになった翔は、身を乗り出して聞いてくる。
「4月から、翔は幼稚園に通うでしょう。でも幼稚園、おうちからちょっと遠くって。どうやって行こうかなあって」
「あるいていかないの? ママいつもあるいてるじゃん」
「歩いたら、うんと時間がかかっちゃうの。困ったなぁ……」
実際に歩けないことはないが、幼稚園で疲れた翔が大人しく歩いてくれるとも思えない。10キロ以上ある翔を抱っこして30分歩くのは、考えただけでもごめんである。
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