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 自転車に乗れないの。  そう告白した人にはもれなく全員驚かれる。「私も乗れないの」と言う人には会ったことがない。  でも、自転車に乗れなくて困ることはほとんどなかった。  唯一あるとすれば、小学校の遠足くらい。  6年生の秋の遠足では、サイクリングをするのが恒例になっていた。  自転車に乗れなかった私は、放課後毎日特訓させられた。 「乗れるまでやれ! お前だけ乗れないなんて、恥ずかしいぞ!」  と。一人だけ放課後に練習させられている方が、よっぽど恥ずかしかった。  ハンドルを握るたびにドキドキしていたのは、今思えば体が自転車を拒んでいたのだろう。転ぶばかりなので、体は傷やアザだらけになった。  雨が降ればいいのに、と憎むように祈っていたのに、当日は快晴。行きたくなかった私は仮病で休んだ。  いいもん、自転車に乗れなくても損なんかしないもん。布団にくるまって、滲んだ涙を拭いながらそう思った。
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