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翔を寝かしつけてから、クローゼットを開けて服を引っ張り出す。部屋着と化していたジャージとTシャツ。転ぶだろうし長袖の方が良いだろうか、と思案していると、
「ただいま」
背後から声をかけられた。驚いて振り向くと、いつの間にか帰ってきていたらしい茂雄が立っている。
「おかえり」
「何してるの、ジャージなんて出して」
ネクタイを緩めながら問う茂雄に、事のあらましを説明する。話を聞いた茂雄は快活に笑った。
「いい機会じゃないか。俺も幼稚園までの地図見てさ、どうするんだろうと思ってたんだよ。行きは俺が行けても、帰りは難しいからさ」
「でも、いい大人が公園で自転車の練習なんて変じゃない?」
口を尖らせてそう言うと、「やらないと乗れるようにならないよ」と翔と同じことを言う。
「そりゃそうだけど」
私はもごもご呟いて、息を吐き出した。この2人には本当に敵わない。
「今度の日曜、俺も一緒に行くよ。教える人がいないと乗れないだろ?」
そうね、と答えてリビングに戻る。外堀から埋められていくって、こういう気分なんじゃないかしら。そんなことを思いながら、茂雄の夕食の準備を始めた。
つけっぱなしのテレビからは、日曜日が晴天だという天気予報が流れている。土砂降りになるように、てるてる坊主を逆さまに吊るしてやろうかしら。そんな子供じみたことを考えて、どこまでも逃げ回ろうとする自分の情けなさに肩を落とした。
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