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 家を出て10分ほど歩くと、広場が併設されている大きな公園に着いた。広場では、親子連れやキャッチボールを楽しむ小学生が遊んでいる。自転車の練習に来た大人はまずいない。できるだけ人のいないところを選んで、ベンチに荷物を下ろした。  茂雄がリュックから工具を取り出し、自転車のペダルの部分を取り外し始める。何してるの、と問うと 「まずはペダルをつけずに、足で蹴って進むとすぐに乗れるようになるらしいぞ。ほら、あそこ。小さい子がペダルのない自転車みたいなの乗ってるだろ」  茂雄はそう言って広場の隅の方を指差す。顔を上げて見ると、たしかに遠くで小さな子供がペダルのない自転車に乗っていた。あんなに小さい子でも乗ろうと頑張っているのか、と眩しく目を細める。 「さあ、どうぞ」  茂雄に促されて、おずおずとサドルに跨った。翔は私のことなど見向きもしない。さっさと自転車に跨って地面を蹴り、すいすい進み始めた。 「翔、危ないから前見ろ! ほら、ママも」  翔を追いかけながら、茂雄はそっと私の背中を押した。地面を少し蹴ってみる。簡単そうに見えるが、意外とバランスが取りにくい。ハンドルに力を入れると、左右にぐらぐら揺れる。足に力を入れると、明後日の方向に進んでしまう。難しい。 「ママ、おそーい!」  広場の真ん中で翔が叫ぶ。待ってえ、と言いながら必死に地面を蹴った。小さい子供に付き添って遊ぶ母親や、ベンチで休むお年寄りが、ちらちらと私を見ている。顔が熱くなり、羞恥でどきどきと鼓動が速くなる。  つい俯くと、 「ママも前見ろ! 危ないぞ!」  と茂雄の声が飛んできた。わかってるよと呟いて、よろめきつつ彼らの方へ向かった。
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