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律が先ほどの全裸男に、出かけてくると告げるのを、晴翔は宿屋の入り口に立ち聞いていた。
それにしても、とんでもなくでかい男だった。
あれほど立派だと、恥ずかしげもなく、他人に見せられるものなのかと考えた。
晴翔は自分の下半身を見下ろした。そんなに負けてはいないんじゃないか?俺だっていきり立てばもう少しは……ハタと気づいた。
(俺はなんで競争しているんだ?馬鹿馬鹿しい)
外に出ると1匹の燕が律の肩に止まった。
「紹介する。こいつは俺の相棒の燕だ。妖だよ」
晴翔は妖を見るのは初めてだったが、妖とはもっとおどろおどろしいと思っていたので、どう見ても普通の燕にしか見えないことに、驚きを隠せなかった。
「燕の妖か……言葉は分かるのですか?」
「分かるよ。さっき人間の姿に化けていた時に会ってる、紬だよ」
普通の女の子にしか見えなった紬が、妖だったと知って、驚いた晴翔は目を丸くした。「紬ちゃんは妖だったのですか、てっきり、人間の可愛い女の子かと思いました」
燕がチュピチュピと鳴いた。
「『可愛い』って言われて喜んでる」
「そうですか、あなたはとても愛らしいですよ」燕の頭を撫でてやると、晴翔の肩に止まった。
「大佐を気に入ったらしい」
「ありがとうございます、それにしても、本当に人間に見えました。今も燕にしか見えない、人間と妖の区別は、どうやってつけるのですか?」
「正直区別のしようがないな。例えばあそこに座っている太った男、あれはカエルの妖だよ」
「どう見たって普通の男にしか見えません。〈白木綿〉には、こんな身近に妖がいるんですね」
「〈白木綿〉だけじゃなくて、どこにでもいるんだけど、人間と見分けがつかないから、気づかないだけだよ。妖は死んだ動物の怨霊で、物質的には存在していないから変化ができるんだけど、変化するときに人間を模倣するから、一見しただけじゃ気がつかないんだ。人間に傷つけられて恨みを抱いていることが多い、むやみに近づかないほうがいいよ。人間を簡単に殺せるほどに、力の強い奴もいるからね」
「では紬ちゃんも人間に?」
「こいつは巣を壊されて、子供たちを殺された。往昔燕は、害虫を食べることで重宝されて来たけど、人家に巣を作るせいか、最近はあまり好かれない」
「気の毒に、辛い思いをしましたね」
チュピチュピジーと力なく鳴いた。
その声はまるで、本当に泣いているかのようだった。
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