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船に揺られること1時間ほどで、律は晴翔と共に〈黒岡〉の港に降り立った。
港沿いに1本の大きな通りがあり、問屋や飯屋、甘味処が立ち並ぶ。
日も暮れて、夜の帳が下りてきているというのに、まだ賑やかだ。
柳並木の道を進んでいき、上之橋と書かれた橋を渡ると、薄暗闇の中、炎に照らされた黒岡軍の正門が見えてきた。
黒岡軍の敷地を、お堀がぐるりと取り囲んでいて、西側には大きな池がある。
四季折々に花が咲く外周は、風光明媚な景色に彩りを添えている。
正門をくぐり中へ入ると、律が呟いた。「こりゃなかなか立派だな」
これだけ立派なら、飯も酒も期待できるぞと、律は胸を躍らせた。
「敷地内は三の丸、二の丸、本丸となっていて、三の丸は正面と東側が大身屋敷、西側が兵舎、道場、役所、医所で、二の丸は正面奥が軍本部、本丸は天守台と、お堂です」晴翔が先を歩いていく。
大身屋敷を通り過ぎ、何棟かある兵舎の中でも、最も大きな2階建ての建物に入った。
「ここは、第1大隊の兵舎です。」
中に入ると、そこは土間になっていて、簡素な造りの炊事場があった。
板張りの廊下を進んでいくと、座卓が3つ並べられた部屋がある。談話室のようだと律は思った。
談話室の隣に、廊下があり奥は洗面所のようだ。
廊下からは庭が見えた。庭といっても木や花は植えられていなくて、ただの砂地だ、ここは剣術の稽古をしたり、体を動かしたりするための庭なんだろう。
晴翔は1階の中庭に面した部屋をノックした。
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