黒岡軍

7/13
前へ
/172ページ
次へ
 船に揺られること1時間ほどで、律は晴翔と共に〈黒岡〉の港に降り立った。  港沿いに1本の大きな通りがあり、問屋や飯屋、甘味処が立ち並ぶ。  日も暮れて、夜の帳が下りてきているというのに、まだ賑やかだ。  柳並木の道を進んでいき、上之橋と書かれた橋を渡ると、薄暗闇の中、炎に照らされた黒岡軍の正門が見えてきた。  黒岡軍の敷地を、お堀がぐるりと取り囲んでいて、西側には大きな池がある。  四季折々に花が咲く外周は、風光明媚な景色に彩りを添えている。  正門をくぐり中へ入ると、律が呟いた。「こりゃなかなか立派だな」  これだけ立派なら、飯も酒も期待できるぞと、律は胸を躍らせた。 「敷地内は(さん)(まる)()(まる)本丸(ほんまる)となっていて、三の丸は正面と東側が大身(たいしん)屋敷、西側が兵舎、道場、役所、医所で、二の丸は正面奥が軍本部、本丸は天守台と、お堂です」晴翔が先を歩いていく。  大身屋敷を通り過ぎ、何棟かある兵舎の中でも、最も大きな2階建ての建物に入った。 「ここは、第1大隊の兵舎です。」  中に入ると、そこは土間になっていて、簡素な造りの炊事場があった。  板張りの廊下を進んでいくと、座卓が3つ並べられた部屋がある。談話室のようだと律は思った。  談話室の隣に、廊下があり奥は洗面所のようだ。  廊下からは庭が見えた。庭といっても木や花は植えられていなくて、ただの砂地だ、ここは剣術の稽古をしたり、体を動かしたりするための庭なんだろう。  晴翔は1階の中庭に面した部屋をノックした。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加