第六章 蝶を優しく包み込む

13/18
619人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
 ***  「全額、佳織さんの口座に入れるように。私には不要だ」  弁護士に指示すると、佳織は不思議そうな表情になった。意味がまったく分からないようだ。  「二人からの婚約破棄に関する慰謝料は、どちらも佳織さんに受け取ってほしいんです。  一番の被害者は貴女ですから」  破棄された人間が、それぞれから受け取ると思っていたはずで、佳織が困惑の表情だ。央司(おうじ)はともかく、妹と婚約していたのは英彦だからだ。  だが、今回の事態を好機(チャンス)(とら)えた英彦は、弟たちの行動には苛立(いらだ)ったが、結果にはかなり満足している。  慰謝料をもらうようなダメージは受けていない。  「受け取ってほしいです。私はまったく傷ついてませんから」  それどころか、この状況を利用した英彦はかなりズルい。後で謝罪することになるだろうから、どうしても佳織に受け取ってもらいたい。  なので、受けやすい提案をしてみる。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!