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「全額、佳織さんの口座に入れるように。私には不要だ」
弁護士に指示すると、佳織は不思議そうな表情になった。意味がまったく分からないようだ。
「二人からの婚約破棄に関する慰謝料は、どちらも佳織さんに受け取ってほしいんです。
一番の被害者は貴女ですから」
破棄された人間が、それぞれから受け取ると思っていたはずで、佳織が困惑の表情だ。央司はともかく、妹と婚約していたのは英彦だからだ。
だが、今回の事態を好機と捉えた英彦は、弟たちの行動には苛立ったが、結果にはかなり満足している。
慰謝料をもらうようなダメージは受けていない。
「受け取ってほしいです。私はまったく傷ついてませんから」
それどころか、この状況を利用した英彦はかなりズルい。後で謝罪することになるだろうから、どうしても佳織に受け取ってもらいたい。
なので、受けやすい提案をしてみる。
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