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引っ越しのために来た社員たちへ、英彦は声を掛けた。
「待っていた。部屋は階段を上がって左方向二つ目の扉のところだ。
貴重品搬出用の準備は?」
クリスタルのオブジェは特に慎重に運ばないとならない。荷物の量を調べた時に電話をして頼んだが、確認する必要はある。
「大丈夫です。
美術品運搬用の準備をしてきましたから」
安心の表情で頷いてから、手当てに関する指示をした後、数枚の札の入った封筒を渡す。
半分以上プライベートになる引っ越しを、ノースランドの子会社に頼んだわけで、費用は英彦が払うとしても配慮は当然だ。
何を渡したのか気になったらしい佳織に説明すると、彼女はその分を支払うと言ったので、笑顔で首を振った。
「そんなの気にしないでください。実は、佳織さんを連れていきたいと思って、準備していたくらいですから」
実現して嬉しいのだから、そのくらいの支払いは安いと彼は感じていた。
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