第六章 蝶を優しく包み込む

18/18
前へ
/108ページ
次へ
 「行きましょう。  佳織さんは今から完全に自由……そうでもないですか。今度は私といることになりますからね」  頷いて(かす)かに笑みを浮かべる彼女に、少し心配になる。  今日、一度も彼女は涙を流していない。泣き叫びたいほど(つら)いはずなのに。  そう思うと、少しでも早く自分の部屋に戻って佳織を(なぐさ)めたい。  ゆっくりと彼女を(うなが)して、水野家のリビングを出る。  佳織を(しいた)げ利用するだけの者たちから逃がすように。  そして、かけがえのない(女性)を、やっと手の中に包み込むことのできた英彦は、決して離すようなことはしないと心の中で誓っていた。                                 おわり
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

622人が本棚に入れています
本棚に追加