第三章 最初に会話を交わすのは……

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 誰かから言われるまで何もできない弟に苛立(いらだ)ったが、年長者の英彦がこの場を(おさ)めるのが一番ということは分かっている。  「うちの庭をご覧になりませんか。今はリンドウが綺麗なんです。  ……央司(おうじ)は佳織さんとゆっくり話したいでしょうし、私も美那さんと少し話したいですから」  美那と結婚するしかないなら、こちらの条件を受けてもらう必要がある。説得に使う理由も考えたから、彼女は嫌々でも受けるはずだ。  英彦が不本意と思いながら受けたように、美那も拒絶はできないだろう。  まだ初代の高桑(たかくわ)と違って、水野は五代目になる。歴代の社長たちは政略結婚のはず。  今以上に、関係強化のために子供を利用する時代があった。  そして、この結婚は株の相互買い取りと引き換えだから、両者ともに断る選択はないのだ。  不満を隠すこともなく英彦と一緒に庭に出た美那は、つまらなそうに視線を動かした。  見事な花畑と思うが、彼女の心にはまったく響かないらしい。  そんな部分にも不満を感じてしまう。
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