第三章 最初に会話を交わすのは……

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 溜息をつきながら美那の傍に向かう。  自分の行動が非常識という自覚はあるようで、(かす)かに(うかが)う様子がある。  それを分かっていながら、結婚する予定の英彦の弟に愛想を振りまくのだから、性的にだらしない人間は、自分の欲望を止められないらしい。  佳織は水野珈琲(コーヒー)の後継条件があるし、本人の雰囲気から、結婚前に男女の関係になることは回避するだろう。  だが、目の前の女性に、そんな良識を期待するのは不可能だ。  一瞬、結婚前に妊娠させれば、他の男を誘惑する余裕はなくなると思ったが、高桑グループでも、さすがに大学生を妊娠させての結婚は体面が悪い。  恋愛からの婚約なら苦笑されるだけで済むだろうが、この結婚は提携を保証するもの。業務と密接に関係しているから、欲望を(おさ)えられないというのは、ノースランドの評判にも響く。  そして、それは水野珈琲でも同様だ。  そうなると、婚約が成立すれば、さすがの美那でも遊ぶことは難しくなる。不満を、英彦との行為で解消されるのは困る。避妊に絶対はないからだ。  さらには、男性に奔放(ほんぽう)すぎる、この女性を抱くのは結婚まで先延ばししたい。  結局、丁重に扱うふりをした放置が一番という考えになる。
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