第一章 出会いは一目惚れ

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 彼の言ったことは事実だ。北海道中に店舗があるから、英彦も出張を頻繁(ひんぱん)に行っている。  経営企画室から提案される、新規店舗の予定地の確認のためだ。  実際に見ないと分からないことが多いので、直接視察することは重要だ。そして、周辺の街の様子を見ることも必須(ひっす)。  採算ラインに乗せるためには、周辺地域の人の動きは無視できない。同業他社の動向も確認しないとならない。  「まだまだ歴史のない会社ですから、歩き回るしかできませんので」  英彦が直接会うことで、難航する交渉が進むこともあるので真剣だ。  「会頭のような経営者になりたいと願ってますけど、いつになれば届くのか……」  半分以上お世辞だが、社交辞令というものが必要なら、いくらでも言える。  相手も当然分かっているだろうが、賞賛の言葉というのは、やはり心地いいようだ。  「それほどでもないよ。  君なら、きっと父親以上の経営者になれるだろう。頑張りなさい」  励ましの言葉をもらえたから、充分以上の成果だと英彦はホッとした。
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