第一章 出会いは一目惚れ

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 ***  「社長はもう少しいるそうですけど、本当に帰りますか?」  秘書に確認された英彦は、嫌そうに頷いた。  「会議所の役員全員に挨拶しただろ。もう解放されてもいいじゃないか」  あの後、英彦は秘書と一緒に、商工会議所のすべての役員に挨拶をして回った。  老舗(しにせ)だと威張る面倒な人間もいるが、笑顔で自分を下にして、なんとか嫌味をかわしている。  ()められて当然で、帰宅くらいは認めてほしいと英彦は思った。  「まぁ……大丈夫と言えば大丈夫ですけど……」  もう少し残って、他の企業の経営者と会話をしてほしいという希望を感じる。  「分かった。適当にあちこちの社長に挨拶して回る。それでいいだろ」  適当、という言葉に、秘書は少し眉をひそめたが、挨拶すると言ったので黙って頷いてきた。
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