第六章 蝶を優しく包み込む

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 ***  もう少し二人きりでいたかったが、さすがに婚約破棄はまだ正式に成立していないので、品位を疑われる行動は(つつし)まないとならない。  最低限の時間で説明を受けて、英彦は佳織と一緒にリビングに戻った。  二人が席を外していたからといって、他の人間たちがリラックスできるわけもない。しかも、弁護士が克弘の指示に合わせて文章を入力中。  「婚姻は書類上、入籍日に成立となるが、婚約でも同様の状況になると加えてくれ」  父親は弁護士にかなり細かく指示しているようだ。  当然だと英彦も思う。  央司(おうじ)美那(みな)なら、絶対に結婚するという契約書を作成しないと何をするか分からない。  今さら結婚を取りやめて、前の形に戻そうとは言われたくない。  弟が欲しがる物は、結局いつも(ゆず)った英彦だが、佳織だけは渡せない。それが央司の行動が理由なら余計に。
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