第六章 蝶を優しく包み込む

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 キーボードを操作していた弁護士の指が止まって、英彦に確認してきた。  「英彦さん、どうでしょう。克弘さんからは了承をいただいてますけど」  頷いて、慎重に画面に書かれている文章を読む。  特に重要なのは婚姻契約書だ。雇用関係終了なら、退職届でも構わないからだ。  読み進めていくと、笑いをこらえるのが難しくなってきた。  書類は面倒な法律用語で書かれているが、内容を読み取ることは難しくない。  簡単に言うと、央司(おうじ)と美那は絶対に結婚しなくてはならず、破棄をした相手-佳織や英彦との結婚は不可能という文章が入っている。  英彦は読みながら、弁護士と父親をちらりと見る。  弁護士は了承の返答を待つ表情で、父親は少し複雑な顔だった。  当然だと思う。  長男は婚約破棄をされた被害者だが、その原因が次男なら割り切れないだろう。
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